この日記はフィクションです(^^)

この日記はフィクションです

お役立ち情報は特にありません

変なタイミングでやっと気が付いた

目覚ましをかけた時間よりも早くに、恋人の「うう…ん」という声で目が覚める。昨日電話を繋いだまま寝落ちてしまったのだ。今の声は寝ぼけてたんだな。起きて伸びをしたわけではないようだ。今朝はわけあって目覚まし時計代わりに電話をかける約束をしているけれど、このまま繋いでおこう。電話越しの気配に注意を払いつつ、昨日買ってきた中村明日美子さんの漫画を読む。何度か時計に目をやる。しばらく経って、突然名前を呼ばれる。おはよう。起こす予定だった時間よりも先に目が覚めたみたいだ。今日はソムリエ試験の二次選考、がんばってきてね、と言って電話を切る。

 

いい天気だ。今すぐ私も起き出して洗濯を回せば、洗濯物はお日様たっぷりの中ですぐに乾くだろう。そう思いながらも、おふとんから動けない。昨晩から枕元に積んである漫画やら小説やらをちょっとずつ読んで、というよりはめくって、時間を食いつぶしていく。それに飽きたら音楽をかける。辞書を開く。ゼルダをやろうとする。ボス戦の最中だった。回れ右をして、なんとなくセーブだけして閉じる。今日は日記を書こうかな、などと考えるポーズをして、難しい考えごとが頭を占拠しないようにだけ気を遣っている。今日は丸一日何も予定がない。暖かい日差しの中で、私はもう夜を待っている。

 

腹減ったな。ようやくおふとんから這い出す。ついでに洗濯も回す。週末は台風だもんな、今のうちに洗っておかねば、という義務感を強く意識しつつこなす。洗濯があがって干す頃には、もう大して日が当たらない時間になっていた。ああ、折角そこにあった午前中の晴れを無駄にしてしまった。心が荒んでいくのが分かる。

 

とはいえ、こんなに気持ちのいい晴れだ。散歩にでも行ってみようと思い立つ。できるだけしっちゃかめっちゃかな格好をしていくことにしよう。洗濯表示が全体にあしらわれているシャツワンピースを着て、左胸にやる気なしレスラーのピンバッジをつける。ワンピースはスリットが太もも辺りまで入っているから、下に茶色のフレアスカートも着る。耳にはメジャーのイヤリングをぶら下げて、「NONBIRI」と書いてあるコットントートに「おだやか」と書いてある缶バッジを装着して完了。お化粧は……どうにも面倒だ。すっぴんに赤リップだけ塗って誤魔化せたことにする(何も誤魔化せてはいない)。

 

行き先は近所の小さな本屋さん。とにかく空白を埋めてくれるものを探したかったんだと思う。店内を何周も何周もして、東君平さんの詩集を手に取る。

 

f:id:smz_wk:20191009182110j:image

特に探していた本というわけではないけれど、なんとなく棚に戻そうとは思わなかった。あとはPOPEYEの街の本屋さん特集回も一緒に買った。

 

私が本を探すためにぐるぐると店内を歩いたり時にはしゃがみ込んだりしている間に、何人もの常連さんが出入りしている。それぞれに好きなことや努力していることがある人たちなのだな、と漏れ聞こえてくる会話から感じ取る。ああ、この本屋さんの店主の方も含めて、何かを成している人ばかりが集っている場所だなあ。私には特段好きなことも得意なこともないし、これからどんどんつまらない人間になっていくのかなあ。突然そんな気持ちになり、むくりと劣等感が頭をもたげてきたところでお会計を済ませそそくさと店を出る。あれ、いま私、あの方たちと自分のことを比べていたよな。

 

モヤモヤして、コンビニにも寄ることにする。気を紛らわせようと立ち読みした雑誌には、二〇〇〇年代生まれの子たちが活躍している様子が書かれていた。雑誌を閉じ、丁寧に棚に戻す。なんか今日だめだ。家に帰るとワンカップがあるから、ホタテの貝ひもを買おう。夕飯もここで買っちゃうし、おやつだって買っちゃうのだ。がんばって盛り上げてみるものの、全然楽しくない。

 

コンビニを出て帰り道、突然足が止まる。あ、私は今しんどいんだ。変なタイミングでやっと気が付いた。久しぶりに大学に復帰して、意識的に自分へのハードルを下げるように、しんどくならないように、満点じゃなくてもいいから続くように、と思って過ごしてきたけど、着々としんどさは積もっていたらしい。そうか、私は私に対して、とりあえず大丈夫でいること、とりあえず元気でいることを、無意識のうちに強く課していたのか。初めて気が付いた。あまりに無自覚だったから、純粋に驚いてしまった。しょんぼり。ごめん。そして、やっぱりどうして私はがんばっていない自分を認めたくないようで、特に大学に戻ってくると同じ学生や学生じゃなくても年齢の近い人でがんばっている人がたくさんいるから、彼らと自分を比べて自分を責めていたんだな。なんだよ、前のダメゴリラのんちゃんから大して変わってないじゃん。そんなことにも気付いて、さらにしょんぼりする。

 

帰宅して、洗濯物を取り込んで、いま日記を書いていている。買ってきた本たちも食べものたちもおいて、とりあえず眠ることにしよう。自分が穏やかでいるためにはどうしたらいいんだろう。少しは上手になったつもりだったんだけどな。せめて振り出しには戻らずに済むといいな。でもどうなるかは誰にも分からないな。頭の中にどんどん言葉があふれていく。ばちん!とはち切れるイメージに取り憑かれる。今はとにかく寝よう。おふとんに入る。それではしばし、おやすみなさい。